コミックマーケット80アフターレポート

会場
東京国際展示場東京ビッグサイト)全館

会期
2011年8月12日(金)〜14日(日)

サークル数
参加サークル数3万5千
申込サークル数5万2千


入場者数
12日(金)16万人
13日(土)18万人
14日(日)20万人


更衣室登録数
 男性女性
12日(金)1,0724,941
13日(土)1,9975,210
14日(日)1,3392,670


コミケット公式発行物


マスコミ取材
 コミックマーケット80取材申込一覧



 3月11日に起こった東日本大震災は、同人誌の世界にも大きな影響を与えました。地震発生直後から4月までの期間において、少なくない同人誌即売会やコスプレイベントなどが、様々な事情により開催の中止や延期を余儀なくされました。こうした相次ぐイベントの中止・延期、余震や電力不足、会場であるビッグサイトの一部施設の損傷と、ネガティブな要素から、このコミケット80の開催を危ぶむ憶測もありましたが、まずは無事に真夏の3日間を開催できたことをうれしく思います。
 今回の開催に当たっては、既に震災発生時にサークル申込が完了していたこともあり、サークルの皆さんの申込時からの事情の変化も鑑み、申込キャンセルの受付を行いました。期間内に約400サークルのキャンセルをお受けしましたが、その後のお問い合わせについても当落の確定までは可能な限り対応し、キャンセルを希望される方については抽選洩れという形で対応しました。また、コミケットとしても被災者の皆さんへの何らかの支援をしたいという想いから、準備会スタッフ内で義援金を集める活動が事前より立ち上がり、当日も毎回の森林保護募金に代えて、今回は東日本大震災の義援金を募ることになりました。なかには、売上金すべてを募金される方もいらっしゃったようで、皆さんのご理解とご協力のおかげで義援金は5,268,475円に達し、お預かりした義援金は9月1日に日本赤十字社に寄付いたしました。ご協力ありがとうございました。
 この震災を契機に、準備会としてもこれまで以上に「防災」ということを意識することになりました。カタログ表紙の裏面という目立つ場所に「災害が発生した時のお願い」を掲示しましたし、設営日に会場側とも連携した大がかりな防災訓練を、東1ホールを中心としたエリアにて行いました。以前の発火事件を受けて当日朝に行った避難訓練以来、実に12年ぶりとなった大規模な防災訓練ですが、準備会スタッフの避難誘導などの対応に対して、視察に来られた深川消防署の方からは「よくやっている」という講評をいただいています。
 加えて、会場に関連して課題となったのは「節電」です。そもそもコミケットは他の展示会に比して電力を使わないイベントですので、厳しい対応は迫られませんでしたが、電灯などを中心とした不要不急の電力の節電には積極的に努めました。ただし、冷房については、参加者の皆さんの熱中症を防ぐことが何よりも大事ですので、通常通りに稼働させたのですが、当日の猛暑がそれを上回ってしまったところはあります。
 その猛暑にもかかわらず、参加者はほぼ例年並みの3日間のべ54万人を記録しています。懸念された熱中症の発生も、昨夏より一般参加者の待機場などに多くのケータリングカーを配置し、容易に水分補給できる対応をとっていますし、なによりも参加者の皆さん自身がしっかりと熱中症対策を自衛した上でコミケットに臨んでいただいたことが功を奏し、救護室利用者は猛暑を前提とした想定よりも少ない人数で済んでいます。

 マスコミ的には、既に夏・冬の風物詩的な扱いを受けているコミケット。逆にそれ故に、コスプレや人混みを映すだけに飽き足らないメディアも増えています。ある参加者への密着取材やコミケにおける熱中症対策といった突っ込んだ取材もあり、その分取材については若干の軋轢もあったようです。参加者には撮影・取材を受ける自由、受けない自由がありますが、度を越した拒否は間違った印象を与えかねません。コミケットは秘密結社の集会ではなく、社会に開かれた場です。自信を持って同人活動やコミケットの面白さを伝えて欲しいと思います。
 取材ではありませんが、初日の12日に文化庁芸術文化課、外務省文化交流課、外務省総合計画課という官僚の方々と、文化庁の推進するメディア芸術コンソーシアム構築事業の事務局の方々が、コミケットの視察に来訪されました。いずれもマンガ・アニメ・ゲームといったカテゴリに遠くない皆さんでしたので、既にコミケットに関するある程度の基本的な知識はお持ちで、今回の視察では、コミケットの内容よりも、その運営方法に注目されていたようです。これだけの規模のイベントがどうやって成立しているのか、準備会スタッフがどう動いているのか、参加者の皆さんがどれだけ協力的なのか――。サークルスペースのみならず、企業ブースやコスプレ広場など幅広く見学されただけでなく、待機列の導線や入場の様子を興味深く眺めておられ、好意的な感想もいただきました。

 初日のできごととしてもうひとつ挙げられるのは、五千円札のニセ札がサークルの会計チェック時に発見されたことでした。この一件はTwitter上で現物の写真とともに情報発信が行われたこともあり、ネットの世界で瞬く間に情報が広がっただけでなく、ネットニュースへの掲載や新聞報道にまで至ってしまい、その伝播力に改めて驚かされました。今回はサークルの会計への注意喚起につながりはしましたが、こういう事件が報道されることによって、コミケットは怪しいイベントと言われかねない危険も孕んでいます。加えて、一見確からしいデマの流布の危険性も、参加者全員が頭の片隅に置いておかねばなりません。

 継続中のビッグサイトの大規模改修工事については、今回は震災による工期遅れから当日施設内の一部トイレが使用できないという状況が発生し、参加者の皆さんにはご不便をおかけしました。この冬のコミケットにおいても改修工事は続いており、何らかの影響は避けられないと思われます。カタログの諸注意ページなど準備会からのアナウンスに留意してください。

 サークルの傾向としては、幅広い年齢層を巻き込んで女性系で久々に大きなムーブメントとなったのが『TIGER&BUNNY』です。4月から放映が開始されたため、2月には申込が終わってしまうコミケット80に、この作品で申し込んでいるサークルがいるはずもなく、全3日間、あらゆるジャンルでタイバニ本が出される賑やかな状況となりました。次回コミケット81では、アニメ(サンライズ)のジャンルが『タイバニ』の居場所となります。男性系で注目を集めたのは、『魔法少女まどか☆マギカ』。ジャンル的な人気もさることながら、様々な形で話題となりました。
 昨年12月に可決され本年7月から本格施行された、改定後の東京都青少年健全育成条例については、サークルの皆さんには当落通知とともに「緊急アピール」を送付し、条例の内容やその対応について詳しく説明をいたしました。繰り返しとなりますが、改定後の条例の下においても、1)サークルの自主的な判断に基づいて「成年マーク」などを入れてもらい、2)即売会のサークルスペースでの対面販売の中で必要に応じて年齢確認を行い、3)18歳未満には「成年マーク」などをつけた頒布物を頒布・閲覧させない、というサークルの皆さんに守っていただきたい内容に基本的に変わりはありません。サークルの皆さんにおいては、今後とも変に自粛したり、過剰な反応をしたりすることなく、同人誌作りに取り組むことをお願いします。ただし、掲出されているPOPやポスター類に関しては、18歳未満の参加者が意図せずに見てしまうことを考慮して、表現を和らげていただくことをお願いするケースがいくつかありました。

 そして、今回大幅な規制緩和を行ったのがコスプレです。いわゆる「長物」規制を廃止し、「物」の制限をできる限り「行動」の制限へ変えるという観点からルールを見直しました。具体的には、「長物」を持つことは認めるが、振り回して周囲に危険を及ぼすのはNGということになります。この緩和については、準備会担当部署内での数年にわたる議論や、コスプレイヤーの皆さんへのアンケート、「コみケッとスペシャル5in水戸」での試行などを経て、ようやく今回実現することができました。これにより今まで使えなかった「アイテムや大きな衣装」「一部の撮影機材」が使用できるようになり、コスプレイヤーの皆さんには概ね好評をいただきました。一方、露出については、今まで曖昧ゆえに混乱やトラブルが起きていたので、「女性の胸の露出は1/3 まで」などと分かりやすい基準を決めたのですが、これが逆に基準が厳しくなったと受け取られたようで、ルールの見直しの難しさを再認識させられました。

 企業ブースでは、ホール内ではなく屋外展示場にステージを組むという新しい試みを行いました。広い場所が確保できたこともあって、ステージによっては500人を超える観客で盛り上がりを見せました。一方、大きな問題となったのは、深川消防署からの防災面での指摘です。具体的には、3日目の消防査察において、あるブースで防炎マークのついていない建材が使用されており、その材質が適正に防炎であることの証明が不足し、消防上の必要な処置が取られていないという指導を受けることとなりました。この指導を受けて当該出展企業と対応についての協議を直ちに行い、そのブースでの3日目の販売を中止しブース周辺を立入禁止とすることで、深川署のご了解をいただくことができ事なきを得ました。とはいえ、一歩対応を誤れば、西4階の企業ブース全体の開催が認められない可能性もあったシリアスな状況だったことは申し添えておきたいと思います。会場及び消防署などの関係者の皆さんや参加者の皆さんにご迷惑をおかけしたことをここで改めてお詫びするとともに、各出展企業のご協力もいただき、次回の安全な開催に向けて、具体的な改善を行っていきます。

 最後に、改めてコミケットという「場」に関連して、いくつかお願いをしたいと思います。マンガ、アニメ、ゲーム、小説及びその周辺ジャンルにおける表現の可能性を追求するメディアとしての同人誌を一般に向けてアピールするための「場」として、コミケットは自らを規定しており、同人誌を発行する個人・グループの表現活動を可能な限り受け入れる自由な「場」として、この「場」を継続させていくことを準備会は目指しています。ところが、この「場」を揺るがしかねないいくつかの問題が起きています。

 ひとつには、一昨年冬のコミケット77以降問題となり続けている、一部のコスプレCD-ROMの性表現についてです。サークル向けの「コミケットアピール」においては、性表現について多くの紙幅を割いて説明を行っています。その中で、刑法百七十五条に抵触するようなワイセツ図画の頒布は認められず、「性器の露骨な描写」や「結合部分の具体的な描写」はワイセツにあたるとして、必要に応じた修正をお願いしています。それを前提に過去三回のコミケットにおける見本誌確認において、ワイセツに当たる恐れのあるコスプレCD-ROMの実写表現について販売停止の措置を取っているにも関わらず、未だに露出の激しいものが多数見受けられ、今夏も販売停止の頒布物が続出しました。
 上記「アピール」において、性表現については「商業誌」レベルを基準とするようにお願いしていますが、実写表現については、モザイク等で一部性器の修正がなされていたとしても、外性器の外周部にまで修正がない場合は、ワイセツにあたる恐れがあると準備会としては判断しています。これは、過去のヘアヌード写真集の摘発事例を元に決められています。また、商業誌においては、性表現の基準が実写と絵では大きく異なっており、「商業誌」レベルを基準とするようにお願いしている以上、コミケットにおいても当然に絵と写真では基準が異なります。「他のサークルがやっているから」というのは言い訳になりませんし、「委託ショップでは売れるのにコミケットが厳しすぎる」という疑問については、これが準備会としての判断であるとお答えするほかありません。自由な表現の「場」と言っても法的な規制を無視することはできません。仮にこれらの頒布物がコミケット会場内で頒布され、当日または後日警察に摘発されるようなことが起これば、コミケットが開催中止に追い込まれる事態に発展しないとも限りません。法律に抵触しない範囲でどのような表現が可能であるか、コスプレイヤー・発行者の皆さんは、今一度熟慮してください。

 次に問題となっているのが同人活動と商業活動の区別の問題です。こちらも「アピール」にて触れていますが、インターネットの普及に伴って、幅広い商業活動が可能になる一方、同人誌の世界は大きくなることでその影響度が高まっています。同人誌を取り巻く環境が変化した結果、同人活動と商業活動との区別は曖昧になりつつあります。もっとも、同人誌をはじめとする同人活動は趣味であることを基本とした、個人・グループが発行・制作することによる自己表現であることに変わりはありません。
 1)法人がサークルとして参加すること、2)法人が発行・制作した本・グッズ等を頒布すること、3)制作資金を法人が負担した本・グッズ等を頒布すること、4)商業媒体において、単なる紹介ではなく連動企画として取り上げられるような本・グッズ等を頒布すること、というような行為は、コミケットという「場」におけるサークル活動とは認められません。しかしながら、毎回少なくない数のサークル申込が企業によるものと判断せざるを得ず、申込をお断りすることになっています。また、コミケットの企業ブースでは同人作品の販売を禁止していますし、その逆も同様です。サークルの発行物を企業ブースで委託頒布した場合、そのサークルの活動を同人活動とは認めず、以降のサークル参加をお断りすることもあります。前回企業ブースへのサークル頒布物の委託頒布を行い、再三の様々な警告を無視して、今回の当日に別サークルへの委託頒布を行おうとした方については、現場にて頒布を直接お断りいたしました。

 これらの問題については、既存の「同人誌」という枠組みを超えた新しい表現において、多く現出しているようにも思います。もちろん、新しい表現そのものは、コミケットが「場」であることを前提としている以上、常に容認し受け入れていきますし、サークルも、自律的な参加者としてマナーを守りつつも、自由に振る舞って欲しいと思います。しかし、法的な規制を超えるようなもの、他人に迷惑をかけたり、妨害、場の運営に支障を来すような意図を持ったりするような場合は、これを受容できません。新しい参加者、新しい表現、状況の変化に応じてコミケットも変わり続けていくわけですが、変わらないコアな部分もあります。未来のコミケットがどうなるかは、準備会だけでも、サークル参加者だけでも、一般参加者だけでもなく、全ての参加者に委ねられているのです。
(2011年9月9日)
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